以下に、参考になる(かどうかはなんともいえない)書籍を列挙する。
というぐあいに、いちおう数はあげてみたが、モータウンLAについて明確な記述があるものは1だけである。副題が示すように、これはレコーディング技術に関する書籍で、類書がないために重宝しているが、モータウンについては、別件でケイにインタヴューしたら、思いがけずモータウンの話を聞いてしまい、聞いた以上は書かざるをえない、といったような調子で、おそろしく腰が引けた記述になっている。
2のアール・パーマー伝は、予想したほどモータウン問題に踏み込んでいなかったが(パーマーは話したはずで、ことの軽重を見誤った著者の不見識である)、本文でも少しふれ、ディスコグラフィーにもモータウンの盤をリストアップしている。
ラルフ・ティーの人名辞典については、本文に引用した。これも便利な本だ。
マックス・ウェインバーグのドラマーへのインタヴュー集は、きわめて音楽的な本で、その意味では韋編三絶というほどよくめくっている本である(洋の東西を問わず、ポップ・ミュージックをあつかった本の多くが非音楽的なのは、みなさんよくご存知のとおり)。モータウンは1960年代にNYでもレコーディングしていた、という重要な証言をした人間が、よりによってバーナード・“ホラ吹き”・パーディーなので、マックス・ウェインバーグも半信半疑という感じで、これまた不満足。しかし、面白い話が満載された好著である。
シャロン・デイヴィスの5は、いい加減そうな見てくれのわりには硬派の本で、モータウンLAのレコーディングで、モータウンのスターたちのかわりにダミーをつとめたルイス・シスターズの写真などというめずらしいものが拝めるし、R・ディーン・テイラーがH=D=Hのゴースト・ライターをつとめたことがあるなどという踏み込んだ話題もあつかっている。巻末のディスコグラフィーが便利。
ネルソン・ジョージは、黒人であることを全面に押し立てるので、音楽からどんどん離れていってしまう困った音楽ライターである。アメリカには掃いて捨てるほどいる、ソシアル・コンシャスネス以外は空っぽの音楽評論家の典型であり、音楽的にはレベルが低く、そういう意味で6はとるに足らない本であるが、モータウンのいいぐさをそのまま検証せずに書いているふしがあり、彼らの公式見解を知るには手ごろである。ケイはジョージを「モータウン御用作家」の一言で片づけている。
7のゴーディー自伝以下は、モータウン関係者が直接に関与した本で、じつは、メアリー・ウィルソンの本をのぞけば、あとは拾い読みしただけで、詳しい検討はしていない。とにかくこういう本が存在していますよ、と示すだけの意味で書棚にたまっていたものを列挙した。シンガーというのは、あまり音楽のことを理解していないふしすらあるほどで、まして、トラックがどうやって作られているかについては一般に無知と決まっているから、たとえ集めて読んでみても、そこらの川にザルを突っ込んで砂金を見つけようとするみたいな徒労に終わる確率が高い、とご忠告申し上げておく。
一冊書き落としがあるだろう、だって? たしかに。アラン・スラトスキーの例の本があるが、基本的に音楽書の翻訳は信用していないので、原書を手に入れようと思っているうちに買いそこなってしまったのである。あとになって、買わなくて正解だったと思ったが、でも、ほんとうにみんながいうほどひどい本なら、ちょっと読んでみたい気もしてきたから変なものだ(最低の出来と話に聞く、アストロノウツの日本録音を聴いてみたくなるのと同じ心理である)。
この本に収録された譜面とじっさいの音をきちんと比較すると、面白いことがわかるそうだから、お持ちの方はぜひ挑戦してみていただきたい。もっとも、採譜なんていうのはいい加減なものと相場は決まっていて、変な採譜をしたのはスラトスキーが最初でもなければ、最後でもない。それに、ケイのプレイはシンコペートした装飾音や、経過音が豊富な複雑なものになることが多いので、たとえ耳のよい人がやっても、完璧にはいかないだろう。
オフィシャル・キャロル・ケイ・WebサイトのURLは本文を参照していただくとして、ひとつだけ重要なリンクをあげておく。
Experience Music Project
これは、ビル・ゲイツといっしょにMSをつくったポール・アレンが、2000年なかごろの開館を目指して、シアトルに建設中の音楽ミュージアムのサイトである。彼らは精力的にヴィデオ・アーカイヴを蓄積中で、そのコレクションのひとつである、キャロル・ケイのインタヴュー・クリップをこのサイトで公開している。
ケイのインタヴューと同時期に、モータウンを支えたソングライター・チームであるホランド兄弟のインタヴューもおこない、そのなかで二人はケイがモータウンでプレイしたと証言しているとのことである。これも早く公開してもらいたいものだ。ケイがモータウンで弾いたかどうかなどという、おそろしく低次元の事実認定でいつまでも足踏みしているのはあまりにも非生産的である。早くこの点を自明のこととして、それを足がかりに、もっと踏み込んだ研究がはじまることを期待している。
なによりもまず、行き場を失って亡者になっていた小文を救いだし、発表する場を提供してくださった木村伸司氏に深甚なる感謝を捧げます。キャロル・ケイとビリー・ストレンジという、尊敬おくあたわぬ二人のすばらしいミュージシャンと、ジョゼフ・スコットの三氏には、貴重な情報を提供していただきました。最後になりますが、レッキングクルーMLの仲間には、「最初に刺客に襲われるのはオレじゃない」という安心感をあたえてもらいました。いや、まったく!
参考2「Players for Motown LA Recording Sessions
1963-69」へもどる
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